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W880(SONY驚異の技術力!) [フィーチャーフォン]

この製品は2007年2月に、ソニエリから海外市場向けに発売されたUMTS(CDMA)方式のウォークマン携帯となります。

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この製品も、以前ご紹介した”W900”同様、海外市場向けながら日本の開発拠点で開発された製品でした。

当時のソニエリは、グローバルモデルの商品展開は大きく4つの分野にカテゴライズされた「ポートフォリオ戦略」をとっていました。

4つの分野とは、ミュージックジャンルの「ウォークマン」、イメージングジャンルの「サイバーショット」、デザインジャンルの「エモーション」、そして「ウェブコミュニケーション」となります。

当時のソニエリはスウェーデンのルンド、中国の北京、米国のノースカロライナ、そして日本の東京の4カ所に開発拠点を持っていて、毎年このポートフォリオに則って、ルンドにある商品企画部門が各モデルを4カ所の拠点に割り振っていました(ソニモバになった現在、米国の開発拠点はシリコンバレーに移動、商品企画部門は東京に移転)。

東京は、日本の市場性を意識して、ハイエンド、高機能、高価格帯のモデルを多く担当しており。各拠点はポートフォリオに従って担当機種を割り振られる一方、拠点側からも新しい企画をポートフォリオに対して提案するという形を取っていました。

最初に商品企画部門がポートフォリオのたたき台を作り、それに対して各拠点からフィードバックを行ってポートフォリオを最適化し、それぞれのサイトの能力を有効に使いながら効率よく端末を開発していくのが通常の流れですが。東京から「こういうのができるよ」という形で、提案されたのが”W880”だったという訳です。

”W880”の開発を東京から提案したのは、開発スタッフの熱い思いが有ったからだと言われています。

東京の開発チームは2005年に”W900”をグローバル向けのウォークマンケータイとして開発を担当しました。このお製品は以前ご紹介した通り、ウォークマンケータイとしては初の3Gモデルで、回転型のボディSMS、MMS、インスタントメッセージング、プッシュ型メール、テレビ電話、FMラジオ、HTMLブラウザなどの機能を備え、Bluetoothや赤外線通信機能を搭載するなど、当時としては超が付くほどのハイエンド機種でした。

しかし、グローバルモデルとしては、3G対応という事を考慮しても大きいサイズの端末で、結果、重い、大きい、と敬遠されてしまい、ビジネス的には失敗となってしまいました。

しかも”W900”は開発作業が本当に困難で、ソフト・ハード両面において死に物狂いでやって、それを日程通りに実行したにも関わらず、出荷直前にはビジネス的な結果が期待通り出ないという事が分かり、開発チームは相当悔しい思いをしたと言います。

そこで、”W900”の端末の出荷判定会議があった日の夕方に”W900”のキーメンバーが集まって、「どういう端末を作ったら我々もユーザーもハッピーなんだろう」という議論をしたそうです。

そこで出した結論はやはりサイズでした。その場で、”W900”の上キャビネット(本体のディスプレイ側)部分だけで同じ機能のモノを作れたらそれはすごい」という話が出た事から、”W880”の企画が始まったそうです。

”W880”の厚さは約9.4mm。"W900"の上キャビネットの厚さは約9.1mmで、0.3mm厚くはなっていますが、”W900”全体の要素が僅か1年でその上キャビネットに収まったのだから驚きです。

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↑手前が”W880”、奥が”W900”厚さの差は歴然

ちなみに、”W880”の凄いところは、この薄さを実現する為に、変わった事はあまりしていないという点です。当時ソニエリ社内でも「本当にそれでこれができたのか!」と驚かれたそうです。

”W880”の薄さを実現する為に、特別な機構やチップを開発していませんでした。一般的に、端末メーカーはチップセットベンダーからプラットフォームの供給を受け、それをベースに開発を進めます。

最新のプラットフォームを利用しようとすると、開発途上のものに端末メーカー側で独自の機能を追加する事になる為、同時進行で開発を行う事になる。プロジェクトのマネジメント上、非常に難しいハンドリングが要求されますが、”W880”では、既存のプラットフォームに殆ど手を入れることなく開発できたといいます。

開発段階で手を加えた所は、大きくは2つ有りました。1つはデジタル系ICと電源系ICをまとめて重ねた構造のデバイスを使い面積を減らした事。チップベンダーがこのデバイスを持っている事を知った開発チームでしたが、ベンダー側もまさか”W880”のようなサイズのものを作っているとは考えなかった為、このデバイスを使う為の交渉は難しかったそうです。しかし、粘り強くベンダー側と交渉した結果、この重ねた構造のICの供給を受ける事ができたといいます。

もう1つは無線通信機構(RF)部分の配置の工夫です。”W880”を開発していた当時、プラットフォーム上ではRFのモジュール化が進んでいたのですが、ひとまとめにしたモジュールではどうしても高さ(厚さ)が必要になります。基板1枚分厚くなってしまう為、薄さを狙っていた”W880”には不向きでした。そこで、その要素をあえて分散させてメインの基板を覆うように配置しています。

W880を分解すると、ダイヤルキー、基板、液晶、カメラ、電池と、大きく5つくらいのブロックで構成されています。メイン基板は500円玉程度のサイズしかありません。

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↑分解すると大きく5つくらいのブロックに分かれている

RF周りは、こうして組んでいった方が、面積は広がるものの高さは低くなるという事で、あえてバラバラに配置したという訳です。

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↑メイン基板は500円程度の大きさ。RF部分は旧来の分散した形で配置

このRF周りの機構は、分解してみせると周りから驚かれたそうです。「新しい物を作る為に、全て最新のものを採用しているのかと思われるのですが、そこを目指すために突き詰めていくと『後戻り』の決断もありなんですね」と後に開発担当者は語っています。

特別な事をしていないという点はバッテリーも同じです。薄くてコンパクトな”W880”ですが、バッテリーは従来からあるものをそのまま使っていました。新しいバッテリーを開発すると開発工数がかかるだけでなく、それを評価する工数も加わり、全体で大きな工数となります。電池を変えなければ、当然新しく電池を開発・評価する工数が不要になる為、プロジェクトの進行が速くなるという判断でした。

バッテリーは”W880”の部品の中で一番大きいものとなっています。しかし開発チームは「バッテリーは変えない」という決断を早々にしています。バッテリーのサイズが決まる事で、メカの構造が設計しやすくなるからです。

”W880”のバッテリーは、背面の上半分、ちょうど液晶パネルと重なる位置にあります。バッテリーが本体の上半分にあるという事は重心が上がり、手に持ったときに実際よりも重さを感じてしまうというリスクがありました。しかし、これを決めないとその後が動かないという事で、リスクを飲み、先にこのレイアウトを決めたそうです。

また、本体の長さも議論の対象になったそうです。というのも”W880”にはUMTS(W-CDMA)用の2.1GHzの他、GPRSの900/1800/1900MHzに対応したアンテナに加え、Bluetoothのアンテナも搭載されています。

これらは全て本体下端のSony Ericssonロゴの下に収まっています。ここを1mm長くすれば、アンテナの物理体積を大きくする事ができ、ひいてはパフォーマンスアップにつながります。しかし、本体を長くすると前述の電池による重心の高さを更に助長してしてしまいます。

その為、僅か1mmを伸ばすか、伸ばさないかを、R&Dチーム内のベースバンドチーム、RFチーム、メカチームで徹底的に議論したそうです。

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↑アンテナは、本体下部のウォークマンロゴの下に配置。前面はステンレス製だが、この部分だけは電波が通るように樹脂製になっている

トライバンドのアンテナに加えて、Bluetoothのアンテナもここに入っている為、スウェーデンの開発チームからは「どうやって実現したのか教えてくれ」という問い合せが来た程凄い事をやりのけたのです。

また、サンプルを他の拠点に配ると、「Bluetoothのアンテナはどこにあるんだ?」という問い合わせがよく来る様になったと言いいます。「UMTSやGPRSのアンテナと一緒に載っている」と答えると、驚いて図入りで説明を求められたりする事がよくあったそうです。

また、”W880”の開発プロジェクトでは、その薄さもさる事ながら、独特のボディカラーを実現するための苦労も有りました。

”W880”のデザインをとても印象深くしているのは、美しく輝くステンレス製の前面パネルです。ステンレスパネルは、ボディを薄くしつつ強度を保つのに有効な素材で、”W880”を企画した当時、すでにモトローラが「MOTORAZR」などで採用していましたた。”W880”のプロジェクトチームでも、ステンレスパネルを採用した製品開発に挑戦する事はすぐに決まったそうです。

しかし、実際にステンレスパネルを採用した端末を量産するにあたっては、色が付けにくい点や、仕上げに対する歩留まりがよくない点など、解決しなくてはならない問題がありました。その為、開発スタッフは中国の工場に常駐して品質を確保したと言いいます。

ステンレス製フロントパネルにはPVDコーティングという方法で色を付けています。ステンレス素材に一般的な塗装を施すと、使っているうちに剥がれてきたり、角の部分に塗料がボテッと溜まったりしてシャープさが損なわれるという問題があり、それを解決するためにPVDコーティングを採用しました。

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↑ステンレス製の前面パネルにはPVDコーティングを用いて色を付けている

PVDコーティングは蒸着に近い塗装法です。窒素ガスの中に金属粉を入れて放電する事で、ステンレスの表面に金属粉を化学的に蓄積させます。この方法では放電時間や金属粉の種類、窒素ガスの濃度といった要素が密接に絡み合って色が変わります。その為、希望の色を出す為に試行錯誤を繰り返したそうです。

ちなみに、”W880”のカkラバリはFlame BlackとSteel Silverの2色で展開されていましたが、Flame Blackの黒を実現するには、Steel Silverの銀色の2倍の時間がかかったそうです。それでも尚、採用に至ったのは、全世界からの熱い期待があったからでした。

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↑左がFlame Black、右がSteel Silver

元々、"W880"は、Steel Silverのみで展開する予定で、生産予定数量も当初はそれほど多くありませんでした。しかし、”W880”のプロジェクトが進行するにつれ、次第に”W880”にかかる期待と注目がソニエリの社内で高まっていったといいます。

そしてどうやら”W880”が本当に製品化できそうだと分かって来ると、商品企画部門から「ぜひもう1色」という要求が出てきました。

最終的な注文の量は、東京のメンバーがかつて経験したことがない数だったそうです。そこに至る前の段階でも、相当の数を全世界にスケジュール通り出荷しなくてはいけないという状況でした。そんな中で、プロジェクトの途中で新しいカラバリを追加するという決断を下すのには、本当に勇気が必要だった言います。

PVDは色が出にくいという事は分かっていましたが、もう1色を追加するにあたって、「黒だったらできるかもしれない」という思いは開発チームにあったそうですが、実際にやってみない事にはなんとも言えない状況でした。また、「色は出せても量産できなかったらどうしよう」という不安もあったそうです。しかし、やるしかないと覚悟してFlame Blackの追加を決断したそうです。

Flame Blackの追加を決断した後も、"W880"に対する期待はどんどん高まって行きました。最終的にはモバイルウォークマンのイメージを打ち出し、2007年の初頭から全世界で他のプロダクトも引っ張っていくソニエリのフラッグシップモデルに位置づけられました。

ウォークマンケータイのシンボルカラーである鮮やかなオレンジ色と、黒いステンレスパネルを組み合わせたFlame Blackは、Steel Silverよりも人気が高く、ラインアップにFlame Blackを加えたところ、Flame Blackの注文が急激に増え、全出荷数量の中に占めるFlame Blackの比率がどんどん上がっていったといいます。その一方、開発チームのプレッシャーもどんどん上がっていきました。ここまでくると「やっぱりできません」とは絶対言えなくなくなったからです。

この様にして、”W880”は”W900”のリベンジ魂から企画され、内部構造にはコロンブスの卵的に最新の製品を造る為に、敢えて従来の技術を採用する一方、ボディはそれまで経験の無い技術にトライするという手法で造られました。

その結果、世界的なヒットとなる製品となりました。当時、デザイン性の高さや、端末の小ささから、国内のガジェット紹介サイトでも数多く紹介され、それを見た時、非常に欲しくなった事を覚えています。

小型・軽量化はSONYのお家芸ですが、僅か1年での小型化や、新しい塗装技術への挑戦など、非常にSONYの精神を受け継いで開発された製品だと言えるんじゃないでしょうか?

携帯端末の主軸がスマホに移り、ガラケーよりデザインが画一的になりがちですが、それでもソニモバはXperiaシリーズに独自のデザインを盛り込んでいます。ソニエリ時代の精神はちゃんとソニモバにも引き継がれている様で安心です。これからも、デザイン性が高いながらもハイエンドな端末を開発し続けて貰いたいですね。




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